JAL123-急減圧流は存在しないと「事故調は認識している」(6) ― 2016年02月25日
(修正) 「当記事の要点」を全部削除しました。<R5/2023-8-4>
「なくても良い」と判断しました。
同時に、「見出し」としての<当記事の要点><記事本文>も削除しました。
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第5回目の記事から、続きます。
https://21utbmjdai.asablo.jp/blog/2016/02/08/8011670
前回(第5回目)の「引用B」で、残っていた説明を、ここで行います。
『航空事故調査報告書 第1冊目 P.60~61』を引用します。
(読みやすくするため、原文にない改行を、それぞれに加えています)。
(引用Bで、最後の部分)
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プレッシャ・リリーフ・ドアは、(中略)、前方がヒンジ、後方が(2)のラッチの外側へ開くドアである。
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(引用、以上)
上記、引用Bで、「後方が(2)のラッチ」の(2)とは、下記「引用C」の(2)を指しています。
(引用C)
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(2) プレッシャ・リリーフ・ドアは、スプリング式のラッチ機構を有し、製造仕様書によると、ラッチ機構は後部胴体内と外気圧との圧力差が1.0psi~1.5psiのときラッチが外れる(ドアは開く。)よう定められている。
さらに、製造時にはラッチ機構のローラの中心線上に199.6キログラム(440ポンド)±18.1キログラム(40ポンド)の荷重をかけたとき、ラッチが外れるよう調整及び試験することが定められている。
(以下省略)
---------------------------------------------------------------------------------
(引用、以上)
上記、「引用Bで、最後の部分」、および「引用C」は、「プレッシャ・リリーフ・ドア」の構造について述べています。
特に、ドアが「開く時」のことを述べています。
「前方がヒンジ」とは、ドア前方に「ヒンジ」が、取付けてあるという意味です。
「ヒンジ」とは、「蝶番(ちょうばん。ちょうつがい)」のことです。
この「ヒンジ」によって、ドアを開いたり、閉じたりできます。
図1 「プレッシャ・リリーフ・ドア」側面
(出典: 『航空事故調査報告書 第1冊目 写真-25 プレッシャ・リリーフ・ドア(地上で開状態)』 運輸省航空事故調査委員会、を引用・抜粋編集)
※※ 図を参照しながら、本文をご覧になる場合、当記事を 「二つのタブ」 で同時に開き、一方のタブを 「図の表示専用」 にすると、非常に便利です。
※図1で、「ドア(黒文字)」が、「プレッシャ・リリーフ・ドア」です。
引用Bで「後方が(2)のラッチ」とは、図2で「ドア開閉用のラッチ機構」のことです。
ドアの後方部に、このラッチがあるという意味です。
図2 「プレッシャ・リリーフ・ドア」内側
(出典: 『航空事故調査報告書 第1冊目 写真-27 プレッシャ・リリーフ・ドア(内側)』 運輸省航空事故調査委員会、を引用・抜粋編集)
※図2で、「胴体前方側(黄文字)」表示の左側に、ヒンジがあります。
ただし、正確な位置は、写真が不鮮明で、さらに素人なので分りません。
図3 ラッチ機構の全体図(元図)
(出典: 『航空事故調査報告書 第1冊目 付図-33 プレッシャ・リリーフ・ドアのラッチ機構』 運輸省航空事故調査委員会、を引用・抜粋編集)
※この図では、文字が不鮮明なので、図4で、文字を補正しました。
図4 ラッチ機構の全体図(文字補正図)
(出典: 『航空事故調査報告書 第1冊目 付図-33 プレッシャ・リリーフ・ドアのラッチ機構』 運輸省航空事故調査委員会、を引用・抜粋編集)
図2~図4での、ラッチ機構の対応関係を示したのが、図5です。
図5 ラッチ機構の対応図
(出典: 図2~図4、を引用・抜粋編集)
※図2の写真が不鮮明で、さらには素人なので、対応が、一部誤っているかもしれません。
(おそらくは、正しいと思っていますが)。
以上が、「引用Bで、最後の部分」と、「引用C」で、第1行目「プレッシャ・リリーフ・ドアは、スプリング式のラッチ機構を有し、」の部分に関する説明です。
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「引用C」で、次の部分は、どのような条件の時、ドアが自動的に開くか、述べています。
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(2) プレッシャ・リリーフ・ドアは、(中略)、製造仕様書によると、ラッチ機構は後部胴体内と外気圧との圧力差が 1.0psi~1.5psi のときラッチが外れる(ドアは開く。)よう定められている。
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(引用、以上)
※「psi」とは、圧力の単位です。ポンド・パー・スクエア・インチ。
1psi ならば、1平方インチ当たり、1ポンドの圧力となります。
1psi = 0.07307kg/cm2
※「後部胴体内」とは、プレッシャ・リリーフ・ドアの「内側」を指します。
※「外気圧」とは、プレッシャ・リリーフ・ドアの「外側」、つまり「胴体の外側」部分の圧力を指します。
したがって、「引用C」で、「後部胴体内と外気圧との圧力差が 1.0psi~1.5psi のときラッチが外れる(ドアは開く。)」とは、次のような意味になります。
プレッシャ・リリーフ・ドアの「内側の圧力(後部胴体の内側の圧力)」が、外側(胴体の外側)の圧力よりも、「1.0psi~1.5psiだけ」強くなった時、ラッチが、その圧力差によって、自動的に動き(ラッチが外れる)、結果的に、このドアが開きます。
この時の、「ドア部分の圧力」の関係を示したのが、図6です。
図6 プレッシャ・リリーフ・ドアの圧力相互関係図
(出典: 『航空事故調査報告書 第1冊目 付図-7 尾翼ステーション図』 運輸省航空事故調査委員会、を引用・抜粋編集)
※図6で、「後部胴体の内側の圧力」は、「後部圧力隔壁」の右側(客席側、つまり内側ではなく、外側)の圧力を指していることに注意して下さい。
これは、後日、述べる、「トリック」で重要な意味を持ちます。
その時、改めて説明します。
ドアに加わる「圧力差によって、ドアが自動的に開く」動作は、以下のとおりです。
図7 ラッチ機構の動作説明の全体図
(出典: 『航空事故調査報告書 第1冊目 付図-33 プレッシャ・リリーフ・ドアのラッチ機構』 運輸省航空事故調査委員会、を引用・抜粋編集)
※図7は、「付図-33」の下半分を抜粋しました。
※この図は、次の3状態を表しています。
上段図:ドアが「閉じている」状態。
中段図:ドアを「手動で開いた」状態。
下段図:ドアが「急減圧流などで、自動的に開き始めた」状態。
※図7は、文字が判読できないので、以下、図8~図10に、分割表示しました。
図8 ラッチ機構の動作説明「閉じた状態」
(出典: 『航空事故調査報告書 第1冊目 付図-33 プレッシャ・リリーフ・ドアのラッチ機構』 運輸省航空事故調査委員会、を引用・抜粋編集)
ドア側の「ローラ・ベアリング」が、機体側の「ブロック」の上に乗っています。
これによって、ドアが閉じています。
「ローラ・ベアリング」は、「トルク・シャフト」「トラニオン」を介して、「スプリング」に押さえつけられているので、「ブロック」の上から、ずれることがなく、ドアは開きません。
図9 ラッチ機構の動作説明「手動で開いた状態」
(出典: 『航空事故調査報告書 第1冊目 付図-33 プレッシャ・リリーフ・ドアのラッチ機構』 運輸省航空事故調査委員会、を引用・抜粋編集)
ドアの「手動ハンドル」を引くと、ラッチ機構全体が、そのまま引き寄せられて、機体側の「ブロック」の上に乗っていた「ローラ・ベアリング」が、ブロックから外れて、ドアが開きます。
ラッチ機構全体が、そのまま引き寄せられるので、図9で、「トラニオンとショルダ・ナットの位置関係は変わらない。」と述べています。
図10 ラッチ機構の動作説明「自動的に開き始めた状態」
(出典: 『航空事故調査報告書 第1冊目 付図-33 プレッシャ・リリーフ・ドアのラッチ機構』 運輸省航空事故調査委員会、を引用・抜粋編集)
急減圧流などによる、圧力によって、ドアが自動的に開く場合、当然ながら「手動ハンドル」は動かず、ドア面に収納されたままです。
そのため、「ラッチ機構」は、ドアが「閉じた状態」と同じように、「引き寄せられてはいません」。
ところが、ドアの内側圧力が、外側よりも 強くなると、その圧力によって、ドアが内側から押されます。
図10の「外力」です。
ドアが開く方向に動くと、それに「引っ張られて」、「ローラ・ベアリング」が、ブロック上を、左方向にずれて行きます。
図4の「トルク・シャフト」を通じて、「ローラ・ベアリング」の動きが、「トラニオン」に伝わります。
「トラニオン」が、「スプリング」を左方向に押して行きます。
「ローラ・ベアリング」が、ブロックから完全に外れると、ドアを閉じている要素はどこにもないので、ドアが自動的に(「外力」に押されて)開きます。
図10で、「トラニオンがショルダ・ナットの上を滑りながらスプリングを縮めてドアは開く」と述べているのが、これらの動きを指しています。
「スプリング」の張力を調整して、ドア内側に、外側よりも 1.0psi~1.5psi 大きい圧力が加わった時に、ちょうどこれらの動きが生じるように、作ってあるわけです。
1.0psi~1.5psi より圧力差が小さければ、ドアが内側から押されて開こうとしても、「スプリング」の張力が勝り、「トラニオン」が動かないので、「ローラ・ベアリング」が、ブロック上にとどまり、ドアは結果的に開きません。
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「引用C」の後半部で、
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さらに、製造時にはラッチ機構のローラの中心線上に199.6キログラム(440ポンド)±18.1キログラム(40ポンド)の荷重をかけたとき、ラッチが外れるよう調整及び試験することが定められている。
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とあります。
これは見てのとおり、急減圧流などが生じて、自動的にドアが開く時の、動作試験方法を述べています。
本来ならば、圧力差が 1.0psi~1.5psi となるように高圧空気を吹き付ける試験をするべきですが、それは実用的な方法ではないので、この圧力差に相当する「所定の荷重を加える」方法で行っていると解釈できます。
440ポンド±40ポンドの荷重をかけた時に、ラッチが外れ、ドアが自動的に開けば合格となります。
「199.6キログラム±18.1キログラム」という端数が出るのは、言うまでもなく、ポンドをメートル法に換算したためです。
米国は、ポンドなので、キログラムで示す半端な数値の荷重を加えるのではなく、ポンドで示す「すっきりした数値の荷重」を加えて試験をしていると、読み取れます。
「圧力差が1.0psi~1.5psi」と、幅を持っています。
これは、わざと幅を持たせたのではなく、製造上の都合で、「幅を持たせざるを得ない」ものと思います。
このドアが自動的に開く機構は、図7~図10で見る限り、バネを用いた、完全な機械的方式です。
所要の圧力差を検出しているのは、結局のところ、このスプリングです。
電子式のセンサーなどは用いていません。
電子式に限らず、圧力計による正確な圧力差を検出する機能はありません。
簡易な方式です。
そのため、何十機もの機体を製造すると、「動作に、ばらつき」が生じるものと思います。
例えば、ある機体は 0.8psi の差圧で開き、別のある機体は 2psi の差圧が生じないと開かない、といった具合です。
これでは困るので、ボーイング社の社内規格として、1.0psi~1.5psi と決めたものと思います。
つまり、「1psi 以上で、1.5psi 以下」の差圧が生じた時に開けば、正しく規格に入っていると判定するわけです。
いくらスプリング張力を微調整しても、動作のばらつきを、完全なゼロにはできないので、このような幅を持たせたものと思います。
これは、一見、当てにならない、いいかげんな機構のように見えます。
実際は、その逆です。
例えば、差圧を測る精密な圧力計を用いたり、ドアを開くための油圧シリンダを用いたりすれば、非常に精度の高い、動きの正確な機構になります。
これが、いつも必ず正常に動作する保証があるなら、何も問題ありません。
ところが、飛行中に与圧隔壁が壊れる、急減圧流が生じる、これらは大変な異常事態です。どこかに、重大なトラブルが生じたということです。
そういう時に、精密な圧力計が正しく働く保証はありません。油圧シリンダが確実に動作する保証はありません。
それどころか、電力や油圧などが、正常に供給されない場合もあり得ます。
どんな状況下でも確実にドアが開くためには、複雑で高度なシステムよりも、できるだけ簡素な構造の方が、動作の信頼性が高まります。
また、一瞬のうちに動作が完了する必要があります。
複雑なシステムほど、時間遅れが生じます(人間の目で見る限りでは、一瞬であっても)。
そのために、わざと「原始的」とも言える構造にしてあるものと思います。
「シンプル・イズ・ベスト」です。
これは、航空機に限らず、すべての設計に言えることです。
(もちろん、いつもこの通りになるとは、言えませんが)。
さらには、構造を簡素にすれば、重量も軽減できます。
航空機では、少しでも軽くするのが、非常に大事です。
冗談ではなく、まじめな話ですが、限度を超えて重くなると、「本当に離陸できなく」なります。
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<長文のため、第7回目に続きます>
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