「オスプレイ事故」に関する、「ある著名科学者」の批判文に「重大な誤り」があります(5) ― 2017年10月03日
第4回目の記事から続きます。
http://21utbmjdai.asablo.jp/blog/2017/09/21/8681069
<今回が、最終回です>
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<7.ささいな思い違い2件>
今回も、今まで同様に、著者「池内 了(いけうち・さとる)」氏の文章を、引用します。
(引用J)
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オスプレイの売りは、ヘリコプターモードで垂直離着陸・空中停止・後退飛行が可能であり、……、空中給油によって原理的にはいくらでも航続距離が延ばせるという点でしょう。
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(引用J、以上)
この「引用J」で、後半部の、「……、 空中給油によって 原理的には いくらでも航続距離が延ばせる ……」は、正論です。
何の間違いも、ありません。
ただし、「空中給油によって、航続距離が延ばせる」のは、オスプレイ機に限りません。
第3回目、第4回目の記事で述べた、「空中給油」は、昔から、行われています。
(第3回目の記事)
http://21utbmjdai.asablo.jp/blog/2017/09/16/8677937
(第4回目の記事)
http://21utbmjdai.asablo.jp/blog/2017/09/21/8681069
ジェット戦闘機などの、固定翼機はもとより、少なくとも米軍では、ヘリコプタさえも、一部の機種では、空中給油が、当たり前に行われています。
したがって、「空中給油によって、航続距離が延ばせる」のは、「オスプレイ機だけの売り」ではありません。
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「ささいな思い違い」の2件目です。
(引用K)
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航空機モードでは地面と直角にプロペラを回転させて浮上し高速飛行するのです。
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(引用K、以上)
この「引用K」で、「…… プロペラを回転させて 浮上し ……」とあります。
「浮上」に着目して下さい。
「第1回目の記事」で、オスプレイ機には、「3種類の飛行モード」(飛行形態)があると述べました。
(1) 固定翼モード
(2) 垂直離着陸モード
(3) 転換モード
(第1回目の記事)
http://21utbmjdai.asablo.jp/blog/2017/08/30/8662448
この「引用K」は、上記「(1) 固定翼モード」での話です。
言うまでもなく、「引用K」での、「航空機モード」は、プロペラが、通常の固定翼機と同じ方向を向いています。
プロペラの回転面が、地面に対して、垂直です。
この状態では、離陸滑走は不可能です。
プロペラの直径が大きくて、「地面(滑走路)にぶつかる」からです。
したがって、「航空機モード」で、離陸滑走して、「浮上する」のは、物理的に不可能です。
おそらく、著者は、「プロペラを回転させることによって、『揚力を発生させて』、高速飛行する」と、言いたかったのではないかと、想像しています。
それだけに、「プロペラを回転させて 浮上し」という、非常に紛らわしい表現は、好ましいことではありません。
なお、「揚力」とは、固定翼機であれ、ヘリコプタであれ、エンジンのないグライダーであれ、機体を浮き上がらせるための「上向きの力」です。
「空気流と翼との相互作用」によって、この力が、発生します。
「空気自体が持つ力(秘めている力)」の一種と言えます。
ヘリコプタの場合は、回転翼が、ここで言う「翼」です。
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<8.不時着か? 墜落か?>
(引用L)
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稲田防衛大臣が「不時着」と強弁したオスプレイの「落下事故」は、給油時に発生したようです。
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(引用L、以上)
沖縄で起きた、オスプレイ機の、空中給油にまつわる、大破事故では、「不時着したのか? それとも墜落したのか?」、大騒ぎになりました。
「大破した以上、墜落に決まっている」との意見が、一般国民の間では、多数派の可能性があります。
しかし、航空の分野から見れば、「大破したか、どうか」の問題とは、異なります。
「パイロットが、機体を制御して、意識的に着陸(着水)しようとしたのか?」
オスプレイ機に限らず、すべての航空機事故について、当てはまります。
もし、前者ならば、「不時着」です。
もし、後者ならば、「墜落」です。
機体が、大破したか? 小破で、すんだか?
それは、「不時着か?、墜落か?」とは、別問題です。
「パイロットが、機体を制御して、意識的に着陸(着水)しようとした」ならば、結果的に、大破しても、「不時着」に変わりありません。
一方、「パイロットにとって、機体を制御できず、結果的に接地(接水)してしまった」ならば、機体が、もし仮に無傷であったとしても、「墜落」に変わりありません。
なお、不時着の場合、機体が大破しても、仮に、死傷者がゼロであったならば、「不時着に大成功した」とも、解釈できます。
一方、不時着したけれども、機体が大破炎上し、仮に、全員(あるいは大多数)が死亡したら、「不時着に失敗した」とも、解釈できます。
ただし、そこまで解釈するか、しないかは、別問題ですが。
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以上で、著者「池内 了」氏の文章に対する記述は、終了します。
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第3回目の記事で、写真を3回引用した、『航空情報』誌に、オスプレイ機に関する記事があります。
『こうすれば解決?! V-22 Osprey Crash』(オスプレイ クラッシュ)
(執筆者名: GEORGE SAKASEGAWA)(ジョージ・サカセガワ?)
「ある条件下で、強い横風を受けると、最悪の場合、操縦不能になり、墜落する可能性がある」旨の指摘をしています。
その一部を、図を含めて、引用します。
これは、「航空雑誌の読者向け」の記事です。
そのため、分かりにくいかもしれませんが、ご了承願います。
(出典: 『航空情報』2015年8月号50ページ(せきれい社)を引用、追記)
※ 図4の「説明文(キャプション)」は、引用した「元記事の見出し」を流用しました。
※※ 図を参照しながら、本文をご覧になる場合、当記事を「二つのタブ」で同時に開き、一方のタブを「図の表示専用」にすると、非常に便利です。
このままでは、文字が読みづらいので、文章の一部(図4の右下部分)を、念のため引用します。
(図4の一部、引用M)
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●瞬間風速10.6m/秒以上の横風
●回転翼を上に向けたヘリモード
●低速-空中停止飛行のとき
●「3-5mの超低高度のとき一際起き易い」と言うパイロットも
●水平を回復できず墜落炎上する場合も
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(図4の一部、引用M、以上)
(注)この「引用M」で、下から2行目、「…… 一際起き易い」は、「…… 一番 起き易い」の誤りと思います。
「引用M」は、「図4」右中央部の矢印で示すように、「20ノット以上の横風」を受けた時、機体が風下方向に傾き、機体を水平に保てず、さらに高度を失い、地上に叩き付けられる可能性があると、指摘しています。
(図5)左右双ローター式独特の弱点(その1)
(出典: 『航空情報』2015年8月号51ページ(せきれい社)を引用、追記)
※ 図5の「説明文(キャプション)」は、引用した「元記事の見出し」を流用しました。
「図5」は、前の「図4」とは異なる、別の問題点を述べています。
(注)「図5」では、「ローター」と表現していますが、「第1回目の記事」で述べたように、表現を統一するために、当記事では、「プロペラ」と、あえて表現しておきます。
(第1回目の記事)
http://21utbmjdai.asablo.jp/blog/2017/08/30/8662448
この「図5」で、上側の図『DOWNWASH ダウンウォッシュ(吹き下ろし)』は、正常飛行の状態を、表しています。
一方、下側の図『DOWNDRAFT + VORTEX 下降気流と渦』は、飛行速度が「低速、あるいは、空中停止時」における、問題点を示しています。
要するに、この場合、「自分のプロペラが発生している、下降気流の中に、自分の機体が入り込み、その結果、発生するはずの揚力が不足し、墜落する可能性」を指摘しています。
これは、「第2回目の記事」で述べた、「墜落事故の原因」、そのものです。
(第2回目の記事)
http://21utbmjdai.asablo.jp/blog/2017/09/10/8673731
(図6)左右双ローター式独特の弱点(その2)
(出典: 『航空情報』2015年8月号51ページ(せきれい社)を引用、追記)
※ 図6の「説明文(キャプション)」は、引用した「元記事の見出し」を流用しました。
「図6」は、上記「図4」について、具体的に述べています。
当然ながら、飛行速度が「低速、あるいは、空中停止時」です。
この時に、右側から横風を受けると、向かって右側のプロペラは、「発生する揚力が、大きく」なります。
一方、反対側(左側)のプロペラでは、逆に、「発生する揚力は、右よりも、小さく」なります。
その結果、「機体の右側」が、左側よりも、上方向に「上がろう」とします。
それは、機体の左側が、「下がろうとする」ことでもあります。
そのため、機体の左側(風下側)が、下り、機体の水平を保てなくなり、最後は、「図4」のように、墜落を招きます。
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そのための、解決策を、執筆者が、述べています。
その一部を、以下に引用します。
※ 読みやすくするため、原文にはない改行を、加えています。
(引用N)
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F-35BのSTOVL機能にも、同じ問題への対策が講じられている。
翼端からの高圧空気噴射による姿勢制御だ。
(中略)
ペイロードを多少減らしても、APU(補助動力源)を追加して強烈な噴射式姿勢制御を併用するのが当然なのだ。
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(引用N、以上)
※ 第1行目の、「F-35B」とは、米軍の新型ステルス戦闘機「F-35」の一種で、「米海兵隊」が使用する機種名です。
※ 「ステルス戦闘機」とは、自機の映像が、レーダーに出来るだけ映らないように、特別に作った戦闘機のことです。
※ 米空軍向けが、「F-35A」で、米海軍向けが「F-35C」です。
航空自衛隊が導入するのは、米空軍向けの「F-35A」です。
※ 同じ第1行目の、「(F-35Bの)STOVL機能」とは、「短距離離陸、および、垂直着陸」機能のことです。
これは、海兵隊向けの「F-35B」だけが持つ機能です。
それだけ性能が優れていると言うよりも、「海兵隊独特の使い方をするため」に、この機能を盛り込んだと言えます。
「F-35A」や、「F-35C」から見れば、いわば、「余計な機能」とも言えます。
この「引用N」で、2行目に、「翼端からの 高圧空気噴射による 姿勢制御」と、あります。
海兵隊向け「F-35B」の場合、飛行用のエンジン部に、「垂直着陸用の、ファン」が、別に付属しています。
この「ファン」が回転することによって生じた、「高圧空気」を、胴体下部から噴射して、垂直着陸や、短距離離陸を行います。
その際に、機体全体の姿勢制御のために、左右両翼端からも、「高圧空気」を、必要に応じて噴射します。
「引用N」の、3行目で、それと同じことを、「オスプレイ機でも行うべき」だと、執筆者が主張しています。
そうすれば、「図4~図6」で示す、オスプレイ機の「致命的な弱点を、解消できる」という意味です。
ただし、これは、あくまでも「執筆者の主張」です。
(この論理が、実際に、うまく行くかどうかは、断言できません)。
※ 「引用N」で、3行目に、「ペイロード」とあります。
民間機の場合は、「乗客や輸送する貨物」などを、「ペイロード」と言います。
要するに、航空会社にとって、「売り上げ金を生じる、搭載物」のことです。
軍用機の場合は、「搭載する武器・弾薬・爆弾」など、軍用輸送機ならば、「輸送する兵員・貨物」などが、「ペイロード」と言えます。
※ 「引用N」で、同じ3行目に、「APU(補助動力源)」とあります。
これは、飛行用とは異なる、「小型のエンジン」のことです。
ここでは、機体の姿勢制御用に、噴射する高圧空気を発生させるための、小型エンジンを指しています。
執筆者は、「そのエンジンを追加しろ」と、主張しているわけです。
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<参考資料>
著者「池内 了(いけうち・さとる)」氏の文章を、ご参考までに、全文引用します。
※ 読みやすくするため、原文にはない改行を、それぞれ加えています。
出典:『ビッグイシュー日本版』2017年5月15日号(有限会社ビッグイシュー日本)
『有限会社ビッグイシュー日本』
https://www.bigissue.jp/about/
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『宇宙・地球・人間 池内 了の市民科学メガネ 9』
<タイトル>
<本文>
空中をゆっくり旋回しつつ、水面近くに魚を見つけると急降下し、ダイビングして獲物を仕留めるという特殊能力を持っています。
これに因んで、ヘリコプターのように垂直に離着陸してホバーリング(空中停止)したり、超低空で地形に沿ったジグザグ飛行して敵地を偵察したりするとともに、通常の航空機のように高速度で飛翔できる戦闘機に「オスプレイ」という名をつけたのだろうと考えられます。
異なった二種のタイプの飛行体が一つの機体で実現できるので「ドリームマシーン」と呼ばれ、40年の歳月を費やして開発したそうです。
オスプレイの売りは、ヘリコプターモードで垂直離着陸・空中停止・後退飛行が可能であり、航空機モードで最高時速が500キロ以上で飛ぶことができ、航続距離3000キロ以上の飛行が可能であるだけでなく、空中給油によって原理的にはいくらでも航続距離が延ばせるという点でしょう。
海兵隊では敵地を急襲して兵員や資材を送り込む作戦に使い、空軍では戦闘・捜索・救難・兵站支援・特殊作戦などのために配備しています。
とはいえ、よく知られているように事故が多発しており、事故の多さから「空飛ぶ恥」とか、「ウィドウメーカー(未亡人製造飛行機)」と揶揄されてきました。
なぜ事故が多いかは、その構造と飛行体の浮上の原理を考えてみれば簡単にわかります。
単純に言えば、この航空機ではプロペラ回転翼の角度が変えられるようになっていて、それを自在に(?)変えることによって効率的に戦闘作戦が実行できることを狙っているのです。
ヘリコプターモードでは地面と平行にプロペラを回転させて浮上させるのに対し、航空機モードでは地面と直角にプロペラを回転させて浮上し高速飛行するのです。
二つのモードに応じてプロペラの回転軸の方向を90度変えており、そのため二つのモード転換を行う時、無理が生じることは簡単に想像できるでしょう。
たとえば、ヘリコプターモードから通常の航空機モードヘ切り換える時、いったんプロペラの回転を止めて、回転軸を地面に垂直方向から水平方向に90度変えなければなりません。
ところが、ヘリコプターモードでプロペラが回転しないと機体は浮き上がりませんから、素早く回転軸の方向転換ができなければ落下せざるを得ないのは明らかです。
つまり、モード転換のときに少しでも手間取ると地上に激突する事故を引き起こしてしまうのです。
逆に、通常の航空機モードからヘリコプターモードに切り替えようとプロペラを止めた場合、急減速に急降下が伴うということになります。
その時、機体から渦輪が生じて下降気流が発生し、機体が浮上しないまま失速してしまうという航空流体力学上の問題が生じることがシミュレーションで明らかにされました。
実際に、これに起因する事故も報告されているそうです。
これまでの航空機ではなかったプロペラの回転軸変化の仕組みですから、新たな思いがけない問題が生じるのです。
空中給油の場合、通常では給油機と航空機が長い給油ホースでつながっていて、給油中ずっと同じ高度を同じ速度で飛行し続けるという離れ業を敢行しなければなりません。
オスプレイだと大きなプロペラが回転して空気の流れが速く、かつ大きく変化していますから、少しでも二機の方向が狂えば給油ホースがプロペラや翼に引っかかって墜落してしまうということになりかねません。
稲田防衛大臣が「不時着」と強弁したオスプレイの「落下事故」は、給油時に発生したようです。
これらはいわば構造的欠陥で、まだまだ多く研究すべき余地があることを示しています。
ところが、事故が起こると操縦士のミスとされて放置されたままなのです。
今、全国の空をオスプレイが我が物顔で飛行するようになりましたが、早急に撤退させねば、必ず重大事故が引き起こされるのではないかと心配です。
いけうち・さとる
1944年、兵庫県生まれ。名古屋大学名誉教授。
専門は宇宙論・銀河物理学、科学・技術・社会論。
「九条科学者の会」呼びかけ人。
著書に『ねえ君、不思議だと思いませんか?」(而立書房)、『宇宙論と神』(集英社新書)、『科学者と戦争』(岩波新書)ほか多数。
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